俺かと思ったら。

まず小学校以来、久々に動物園に行った時のこと。

日曜日だからすごい人込みで、アイツがはぐれてないか何度も確認した。ウザがられたけど、迷われたら困るもんな。

でその時も、ふと隣を見るといなかった。

言わんこっちゃない。ホント、手のかかる幼馴染だな。このあとすぐ、迷子の放送が流れてきたりしてな。

なんて思ったけど、振り返ったらちゃんといた。数メートル離れた所で、こっちに向かってカメラ構えてるじゃないの。・・・へえ、たまには俺のこと撮りたくなった?

残念だったな、隠し撮れなくて。ポーズ決めるから、全身しっかり収めてくれよな。

空を見上げ、片手を高く掲げてガッツポーズ。キャッチフレーズがあるんなら、天まで届け、とか?

いやマジ、太陽光を浴びていい感じになってるんじゃないの、これ。

「シュン、そこどいて。邪魔」

しっしっと手で脇へ追いやられる。それはそれは素っ気なく。

「んんん~。お鼻高い高い、かぁわいー!」

振り向くと、檻の向こうのゾウがすぐ近くに来ていた。木の上のリンゴに目指して、大きく鼻を伸ばしている。

「・・・」

そういや先週の水族館でも似たようなことあったな、なんて俺は肩をすくめたとさ。

で場面が変わってその帰り、電車で立ちっぱなしだった時のこと。

ゾウやキリンを見て、写真を撮って、昼めし食って、2,3時間あれば十分だって思ってたのに。

「レッサーちゃん、またこっち向かないかな」

「疲れた~カフェで一休みしよ」

「ふれあいコーナーも行きたい!」

チカの要望は止まらない止まらない。結局閉園ぎりぎりまで、たっぷり6時間は動物園に閉じ込められた。

そんでクタクタのその帰り。乗り込んだ電車が満席で、二駅待って空いた席にチカが座って10分ほど経った時。

チカが急に席を立った。

おっ、代わってくれんのか。まあ俺が荷物持ってるし、甘えさせてもらおうかな。

稀な労りありがたしと席に着く。と、頭をぺちんとはたかれた。

「何座ってんのよ、どいて!」

「ええ?」

困惑しながらも立つと、チカは近くで立っていた小学生に声を掛けた。

「ぼく、座る?」

「うんっ」

どしん、と勢いよく腰掛ける小学生。俺は小声でチカに囁いた。

「着くまで30分はあるけど、いいわけ?」

「あの子、座れなかったら可哀そうじゃない?」

「・・・あそ」

チカはあっけらかんと、愛しの動物達を収めた画面をスクロールし始めたのだった。

攻撃をかわして、前に進んで、あーーーー、ボムもう無くなる・・・!

「ちょっと!」

びくうっと肩が上下する。顔を上げ、恐る恐る上目遣いで前を見る。先生の目がこっちを睨んでいた。

いや、これは俺じゃない可能性も・・・。と目を伏せたら先生、黒板の前を離れて俺の席の横で止まった。

「何してるの! ちゃんと前を見なさい!」

授業中のゲーム、ついにバレたあ・・・。

これは年貢の納め時。俺は堪忍して、机の中のゲーム機を外へ出した。

「悪いことだって分かってます、反省してます、すいませんでした!」

「?! ・・・そう、不真面目なお隣同士ってことね」

「へ?」

「こら、起きなさい。遠山さんったら!」

「んんん~・・・」

なんと、俺の隣でチカが寝てたんだ。先生は肩を叩いて起こそうとしたけど、アイツはどこ吹く風。

でも俺がこちょこちょしてやったら、奇声を上げて椅子から転がり落ちた。

「起きたわね。・・・さて、思わぬ収穫もあったことだし」

俺達は2人仲良く、放課後の職員室送りとなったのだった。

「チカ~ダメだろ? 寝るのは夜と、実写映画観る時だけだろ?」

「シュンこそ、バカじゃないの? バケツを掘って」

「墓穴な」

・・・さらに、チカの分まで俺が反省文を考えてやるっていうおまけもついた。

部活帰り。自転車を漕いで帰宅してると、チカの姿を見かけた。妙にのろのろ歩いてると思ったら、アイツなにやら両手に荷物をぶら下げてる。

「おーい、チカ! 大丈夫?」

声を掛けると、チカは数秒固まってからゆっくり振り向いた。顔が少し疲れている。近づいて見ると、結構汗だくなのが分かった。

「何してんの?」

「そんなの、決まってるでしょ」

ツン、と澄ましかえった顔。袋の中にはラッピングされた袋がちらちら。あーそっか。今日はバレンタインデーだっけ。

「配ってんのよ皆に」

「へー・・・乗ってく?」

「え?」

「それも、カゴに入れれば?」

チカは少し躊躇ってたけど、腕時計を見てから荷台に飛び乗った。

「2人乗り、先生にバレないようにしてよ」

「また一緒に怒られちゃうー? なんてなっ。で、どこ行くわけ?」

「まず2丁目の・・・」

同級生、部活仲間と20人以上の家を回った。こんなの、徒歩だととてつもない時間がかかったはず。でもチカはどうしても、バレンタインの今日中に皆にチョコを配り終えたいらしい。

「山ほどいるの。チョコを渡したい友達。だから頑張ってよ」

プレーンとチョコのマーブルクッキー。それを入れた透明な袋をゆらゆらさせながらチカは言った。

チョコーじゃなくてクッキーだけどーが残り少なくなってきた頃、チカが誘導したのは俺の家の方向。おお、これはまさか、まさかきちゃいますか?

チカが今までそんなのくれたことないけど、まあ腐れ縁だしな。友チョコくらい貰ってもおかしくないよな~。よし、俺の家の前の道路へGO!

が、俺の家は何事もなくスルーされ。

「これで、最後・・・」

ラス1は、俺の近所に住んでるクラスメイトだった。

つまり、俺は違うのね。バレンタインデーにチョコを渡したい相手じゃないと。ざんねーん。

「あー、無事友チョコ渡し終わった! ごくろーさま、シュン」

自宅前まで送ってくと、チカは自転車を下りた。

「ご飯、うちで食べてって良かったのに」

「忙しいから無理! じゃーねっ」

一目散に、家の中へ駆けてったとさ。

後片付けとか大変っぽい。明日、宿題写させてとか言われなきゃいいけど。

翌朝。

机の中で見つけた紙袋。中には、ラップで雑にくるまれたオレンジピール入りのブラウニー。

『一日くらい、遅れてもいいでしょ』

メモにはお馴染みすぎる文字。

・・・つまり、俺は違うらしい。友チョコを、渡したい相手じゃないってさ。

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