ゲームぼっち 10

友情

■■

「今日の休み時間は何したの?」

「アンデルセン読み終わったよ」

「葵は本当に、読書が好きなんだね。他には?」

「他?」

「友達と・・・」

「何も。友達いないもん」

葵はなんてことない、という顔をして言ってみせた。

「友達と何したの?」に対し「特に何もしてないよ」と答え続けるのがしんどくなってきて、この日つい本当のことを言ってしまったのだ。

「そっか・・・」

父親は少しの間、夕食を食べる手を止めて葵をじっと見つめてきた。なんだか悲しまれているみたいで居心地悪くなり目を逸らしてしまう。

「っ私、一人で本読むの好きだよ」

「本以外、興味ないわけ?」

口を挟んだのは、ご飯をよそう母親だった。

「そうじゃないけど・・・」

「じゃ、パパ、葵に遊んでもらえば?」

「「へ?」」

「ほら、なんたらってやつ、ウチの納戸にあったでしょ?」

「あっ、ああ!」

父親はあたふたと席を立つと、何やら紙袋を抱えて戻ってきた。

「ほい、ほい」

中からいくつもいくつも箱が出てくる。赤と緑のギンガムチェックの、トランプカードくらいの箱。光り輝く宝箱が描かれた丸い箱。動物たちが数字を抱えて飛び跳ねている、おどうぐばこサイズの箱・・・。

ざっと、10個くらいの箱がテーブルの上に並べられた。

「パパ、これ何?」

「ボードゲームっていってね、パパの趣味さ」

「ボードゲーム?」

「なんていうか、オセロとかトランプに似てて、駒とかカードを動かして遊ぶゲームなんだ」

「へー。どう違うの?」

「ボードゲームの方がやっててワクワクするよ。宝物を探したり、モンスターを倒したり、王国を作ったりできるんだからね!」

「ふーん」

ちょっと楽しそうかも。

「いつかママと一緒にやりたいなって思ってたんだけどね」

「ごめんね、私別に興味ないのよ。だから葵が遊んであげて。頭の回転が速いし、こういうの得意じゃない?」

「できるかなあ」

「大丈夫、パパが一から教えてあげるからさ」

こうして勧められるがまま始めたボードゲームだったが、やり始めると思っていた以上に葵に合っていた。

「じゃあこの黄色の駒を前に進めてルビーゲット」

「やるねぇ、じゃあパパは青い駒を下げようかな」

(じゃあ、こっちは赤い駒を・・・ダメ、パパにダイヤが入る・・・)

「うーん、少し考えるね」

「どーぞどーぞ」

自分の手番を終え、父親の手を見ながら次に自分が何をすればいいのか考える。

それが次第に、勝つためになにをすればいいかという考え方に代わっていった。

・・・しかし、それが実を結ぶまでの道は険しかった。

「よおおし、20ポイント到達! パパの勝ちだ!」

「パパって、全然手加減してくれないね」

ある日つい、こんなことを言ってしまった。

とあるゲームを気に入り、やりこむこと数日。やっと上手くなってきたのに惜しいプレイばかりが続いた。

今日こそは勝ってやる、勝てるまでやってやるとムキになるのも無理はなかった。そして「もう一回、もう一回」とせがみまくった果て、日付を越えて5連敗を喫してしまったのだ。

どんなに考えても葵はいつも負けてばかり。悔しさと、「私なんかじゃ、絶対に勝てないんじゃないか」という不安が相まって、気が付いたらそんな言葉を吐いていた。

「・・・!」

パッと口を押さえる。そんなこと言うつもりじゃなかったのに。

「ごめん、パパ、その・・・」

「手加減はできないなぁ。だってパパ、負けちゃうかもしれないもん」

「え?」

返ってきた答えに、思わず俯いていた顔が上がる。

「葵は今、『あれはマズかった』とか『次はこうしよう』とか考えてるだろ?」

「! なんでわかるの?」

「葵は賢いからね。ママも言ってたじゃないか」

「・・・」

「成長スピードが速いもん。すぐにパパより強くなっちゃうよ」

父親はそう言って楽しそうに笑っていた。

それを見る葵の目はなんだか熱くなって。

■■

気が付いたら、ポロリと涙がこぼれていた。

「えっ、ブルイちゃん?!」

「みかんやりすぎー! いけない子ー!」

「いやでもさ、ブルイちゃん結構油断ならないのよ?!」

「まあねーレシピ覚えるの早いよな」

「それにさ、絶対頭の回転も速いじゃない」

「てかみかん、ブルイちゃんばっか警戒してさ。俺のことはほったらかしって酷くない?」

目の前でやんややんやと言い合う二人を見て葵はしみじみ感じた。

(この人達、パパと同じなんだ)

葵をちゃんと見て、一人前のプレイヤーとして扱ってくれている。

そんなの、父親だけだと思っていたのに。

(ううん、そう思い込んでただけかも・・・)

さっきのラウンドで分かった。自分の考えにばかり集中しがちだ。初対面の相手だと特に。それが葵の悪い癖なのだ。

「まあみかん。初心者の葵ちゃんより俺の方を警戒し」

「違います。私初心者じゃありません」

気が付くと、大声を上げていた。

「私、ボードゲーム大好きなんです。いっぱいやってるんです。今日は正直、いろいろうっかりしててまずいプレイもあったと思うんですけど・・・今からはしっかり勝ちに行きます!」

一気に喋ってしまった。

みかんとオレンジは呆気に取られ、目をぱちぱちさせている。

「お、おお、そっか!」

「な、なら大丈夫なのかな?」

「はい!」

葵は大きく頷いた。

「じゃ、早速第4ラウンド行っちゃいましょうか!」

葵はさっと客の山札に手を伸ばした。

顔を見合わせる2人の前で、一枚ずつ表向きにして皿の横に並べる。左から、眼帯をつけた海賊、煙草を咥えたマダム、ドレッドヘアの少年。

「なんか、今回のお客はキャラ濃いな・・・」

葵は素早くお客カードに目を通した。

海賊の特典は『星2アップ+【独占】。本ラウンド終了時に、表向きになっている食材1種を自分のまな板に集めることができる。集めた食材は次ラウンドのみ、自身の食材として使用可』

マダムは『星2アップ』

少年は『【廃棄&復活】。本ラウンド終了時に自分のまな板の上の、任意の食材1枚を廃棄できる。また次ラウンド中に、それ以前のラウンドで他プレイヤーが使用した食材1枚を、自身の食材として使用可能』

ここに来て、特典の内容も少し複雑になってきた。

「いや、なんか特典の使い方むずくね?」

「ねー」

「てか、人の使った食材なんて覚えてないよな」

基本、使い終わった食材カードは見れない。この特典を使うと宣言してからは別だろうが。

(何があったかなあ・・・もっとちゃんと見てればなあ)

注文カードも一枚ずつ置いていく。

「あっと、これは・・・」

みかんがマダムとその注文を取り上げる。『玉子メインの料理が食べたい』とあった。

「今できないからスキップね」

すみませんでした、のつもりで葵は小さく頭を下げる。

葵のミスで、先のラウンドは注文クリアならずで終わった。そのペナルティーによって、本ラウンドでは全員の玉子と鶏が使用不可となっている。

「この人は次ラウンドだな」

「じゃ、代わりに・・・」

葵は、マダムの代わりのお客カードと注文カードを一枚ずつ引き直した。

お客カードは、メガネを掛けマスクをし、聴診器をぶら下げた初老の男性ーいや、こんなの医師しかありえないーだった。

特典は『【置換】。皿上の食材を、別の食材に換えることができる。但し、3枚食材を出した後に使用可。誰かのまな板の上で表向きになっている食材に換えることはできない。2度のラウンドで1回ずつ使用可』。

「いや、めんど・・・」

オレンジが苦笑する。

ともあれ出揃ったのは。

海賊の注文は『ジャガイモを使った料理が食べたい』。皿の枠は3つ。

医師は『牛乳は使ってほしいが、チーズは嫌いなので入れないで』。皿の枠は4つ。

少年の注文は『肉は使わないで』。皿の枠は5つ。

(牛乳、ジャガイモ・・・)

自動的に、これまでに見つけたレシピが頭に浮かんできた。

牛乳を使うレシピには、ポタージュ類、ライスプディングなどがあった。

ジャガイモは、ポタージュは勿論、

〈魚介+ジャガイモ+玉子=フィッシュアンドチップス〉。

〈ジャガイモ+豚+香草・スパイス=ジャーマンポテト〉。

なんかを見かけた。

(あとはポトフとか、コロッケ・・・あ、コロッケは違うっけ)

このレシピのコロッケは、葵がよく知るそれとは別物だった。パン粉と牛乳と玉子で衣をつけるのは似ているが、使うのはジャガイモじゃなくて牛だ。オランダの料理で、ビターバレンという肉汁スープたっぷりのスナックだとか。

(とまあ、いろいろレシピはあったけど、今の状況でどんなのが作れるのかなあ・・・)

葵は自身のまな板を見やる。

ペナルティーによってー設定上、客からの嫌がらせでー鶏と玉子がつかえなくなっている。

葵が今自由に使えるのは、ニンニクと牛乳とソースだけ。

(これでどうやって戦おうか・・・)

みかん、オレンジの方にも目を向ける。と、二人もこちらを見ていた。

目が合う。

(みんな、考えてるんだね、私と同じこと)

そう思うと、なぜか悪い気はしなかった。

「じゃあ注文も揃ったことだし、行こうぜ!」

「ブルイちゃんもいい? じゃ、スタート!」

三人の手が一斉にまな板にかかる。みかんとオレンジがジャガイモを掴むのを葵は見た。

(そうだよね)

〈チーズ+豚+ジャガイモ=ラクレット〉。さっきオレンジが作ろうとしていた料理。みかんのチーズとオレンジの豚で、これが作れるのだから。

だから後はどちらが特典を手にするのかの競争になるはず。・・・だけど。

海賊の皿に集まる3人の手。

「「ジャガイモを海賊へ!」」

「牛乳を海賊へ」

反射的に、みかんとオレンジが葵を見た。葵と、その手の牛乳のカードを。

「「え?」」

(これを、牛乳必須のお医者に使わなかったことが疑問だよね)

パッと見、先ほどの失敗の繰り返しだ。必須食材のトマトを他所で使ったことを、何も反省してないように見えるかもしれない。

(でも、これでいいの)

アオイにはちゃんとした道筋があった。続き、ニンニクを手に取る。

「ニンニクを少年に!」

「おお、なんかヤバそうねブルイちゃん」

「だな・・・えっと、ジャガイモは俺の勝ちってことで」

「はあい」

「じゃあ、〈ジャガイモ+牛乳=ジャガイモのポタージュ〉の完成だな」

葵はソースを手に取り、その下のカードをめくる。

香草・スパイスだった。

(お、ラッキー! 自分で出せる!)

「ソースも少年に! その下の「香草・スパイスを少年に!」」

みかんの手が、少年の皿の上で葵と重なった。

(バレちゃったかあ・・・)

〈香草・スパイス+パスタ・マカロニ+ニンニク+ソース=ジェノベーゼ〉。

ニンニクとソースを使ったレシピ。食材4個のうち、少なくともは2個出せるので特典も多分ゲット可能。現状を打破するにはこれしかない。

葵のその死に物狂いの思いが、みかんに伝わったということだろうか。

「ふふ・・・」

「何よ、勝ったから嬉しいのォ?」

「それもあります」

「もー私ってこういう競り合い負けてばっか」

例によって少し出遅れたみかんは、大人しく香草・スパイスを元に戻す。

あとは、と葵はオレンジのまな板に目をやった。正確には、牛乳の上にあるパスタ・マカロニに。

「え? うーわ・・・」

オレンジは、未だ空のお医者の皿と、残すところパスタ・マカロニだけの少年の皿を交互に見ていた。

お医者は牛乳を欲している。葵は使った。みかんは出せない。となればオレンジが出すしかない。

つまり、その上のパスタ・マカロニをまず使わなくてはならないわけで。

(〈チーズ+パスタ・マカロニ+牛乳=ゴルゴンゾーラ〉の道もあったかもね。でもお医者さんったら、チーズNGだもんね。だからあのお医者にパスタ・マカロニは使えない)

状況的に、オレンジは葵のジェノベーゼ作りに協力するしかないのだ。食材を出せるのに出さずドボンしたら、そのプレイヤー単体にペナルティーが掛かるからそういう邪魔はできない。

「パスタを少年に・・・」

ちょっと強張った笑みでパスタ・マカロニを置いてくれるオレンジ。やられた。そう思っているのが伝わってくる。

「で、パスタの下の牛乳をせんせーに」

「じゃ、私もジャガイモを先生に。これで完成ね」

かくして3つの料理が完成した。

海賊にはジャガイモのポタージュ。お医者にもジャガイモのポタージュ。少年にはジェノベーゼ。

「まさかのジャガイモのポタージュ第2弾かよ」

「いや、それより私今回1枚しか出せなかったんだけど~」

「ホントだ。んで、ブルイちゃんは4枚かよ。ま、でも俺今回星2個上がるしラッキー」

「特典は1人1枚ずつゲットね。でも私の使いにくいなあ・・・」

海賊の特典、【独占】はオレンジに。

医者の特典、【置換】はみかんに。

少年の特典、【廃棄&復活】は葵に。

「俺とブルイちゃんは、今しなきゃいけないんだけど、こういう時はどっちが先だっけ」

「ルールブックによると、お皿の枠が多い順だからブルイちゃんね。何捨てるの?」

「鶏です」

当たり前でしょ、とばかりにみかんに置かれたそれを脇に避けた。

これを葵が使ってもみかんの得にしかならないのだ。

「で俺はっと・・・玉子をもらうよお二人さん♪ お、てか俺今トップじゃんやった」

5ラウンド目。お客と特典は次の通り。

サングラスにマスクと、いかにも不審者の男。特典は『【廃棄】。本ラウンド終了後、自身のまな板の任意の1枚の食材を廃棄可能』。

さっきの喫煙者マダム。特典は『星2アップ』。

十字架の入った大きな帽子を被りガウンを羽織った老人。特典は『5つの食材使用で星4アップ。それより少ない食材数なら、2アップ』。

(下手したら、このラウンドで終わっちゃわないかな・・・あれ?)

「またキャラの濃い・・・っとと?」

3人の目線が、老人の特典の下の文言に釘付けに集まる。

『我、教皇の命により、本ラウンドの客の皿は全て5枠とする』。

「へえ、こういうのあるんだな」

「前は出なかったもんね」

みかんとオレンジはパッケージから5枠の皿を出して置いた。

「注文めくりますね」

出揃った時、思わず声が漏れた。

不審者は『野菜は使用禁止』。

マダムはさっきの通り、『玉子メインの料理が食べたい』。

教皇は『玉子を使った料理が食べたい』。

なんと、3人中2人が玉子を必要としているのだ。

(玉子、玉子ね。パンがあれば、スコッチエッグとか、カツレツとか、パンプディングとかの選択肢もあっただろうけど)

今現在、表向きになっている食材で作れるものなら。

〈牛+タマネギ+ニンジン+玉子+ソース=ミートローフ〉。

〈鶏+ニンニク+香草・スパイス=フライドチキン〉

〈玉子+豚+パスタ・マカロニ+チーズ+香草・スパイス=カルボナーラ〉。

〈玉子+豚=ベーコンエッグ〉。

こんなところか。

(やっぱり、オレンジさん有利かなぁ)

何せ彼のまな板には、これらの食材の大半があるのだから。

オレンジはほぼ確実に、教皇に5枚置こうとするだろう。きっとみかんも。葵もそれを目指すのが当然だが・・・。

(5個かあ、5個ってことはミートローフかカルボナーラだよね。私が目指すとしたら、ミートローフしかないかな・・・けどなあ)

「じゃあ、スタート!」

みかんの掛け声とともに、3人の手がまな板の食材に掛かった。そして一斉に目指した先は。

「教皇に牛!」

「教皇にパスタ!」

「教皇に鶏!」

3人が目線を見交わす。この3つが、玉子と組み合わせて成立するレシピはない。つまり、置けるのは1人だけ。

「オレンジさん、ですかね・・・?」

「そうね・・・」

みかんはパスタを、葵は鶏を、それぞれまな板に引っ込める。その間に、オレンジは次のカードに手を伸ばしていた。

「香草・スパイスをマダムに!」

(早いなあホント・・・)

オレンジがミートローフを、みかんがカルボナーラを目指すのは予想通りだった。葵はその2択なら、タマネギとメイン食材の牛を出せるミートローフを選ぶべきだったろう。カルボナーラはメインの玉子も豚もない上に、残り食材3つをみかんも持っているので全部出せる保証がないからだ。

だが一方、葵の牛はチーズの下にあるので、一番上に牛があるオレンジより早く出せるはずもなかった。だから食材5個を諦め、フライドチキンに舵を切ったのだが・・・。

(結局、競り負けたなあ・・・あ、ていうか私【復活】あったじゃん。誰か、過去のレシピで牛使ってたよね。うっかり見落としてたなあ・・・)

「豚もマダムに!」

オレンジの声ではっと我に返る。いけない、現実に戻らねば。

「え・・・」

皿の上を見て、あることに気づいてしまった。

マダムの特典は、オレンジのものだった。既にカルボナーラ用の食材を2つ置き終わって、玉子は彼しか置けない。つまりこのラウンドが終われば彼の星は7になる。

教皇の皿は、ミートローフの方向へと向かっている。そして今のところ、オレンジだけが、玉子とニンジンを出せる。

・・・このままだとオレンジが星10に到達してしまうのだ。

みかんもそのことに気づいたのか、体が完全に固まっている。

(え、やばいやばいやばい、どうするどうするどうする)

「玉子を教皇に!」

「チ、チーズをマダムに・・・」

ともかく、置けるものは置くしかない。手を動かしつつ、葵は必死で思考を巡らせた。

教皇のミートローフは残り、タマネギ、ニンジン、ソース。ニンジンは葵以外誰も使ってないから復活できない。ソースは復活できるが、それでも葵が特典を手にすることはできない。

(とにかく、あの教皇の皿をこのままミートローフにさせてたらヤバイ・・・!)

「玉子をマダムに! んで、米を不審者に!」

「鶏を不審者に!」

ゲームを終わらせたくない。その思いから出た咄嗟の判断だった。

固まっていたみかんの目が大きく見開かれる。

(勝っ・・・た)

オレンジよりも、葵の方が早かった。オレンジはレシピ表を見、あちゃーという顔をした。彼の米はニンジンの上に戻される。鶏と米を両立するジャンバラヤが、野菜なしには作れないからだ。

それをみかんも察したのだろう。葵に向けて、音のない拍手をしてくれた。

(よ、よし。これでとりあえず、よし・・・)

多分、オレンジはライスプディングを作ろうとしたのだろう。自分の米とみかんの牛乳を使ってしまえば、その下のニンジンとソースが使えるようになりミートローフに歯止めがかからなくなるからだ。

だが結果として、ミートローフは玉子と牛のみでストップした。否、作れなくなって場が停滞したともいえるが、この状態なら違う料理を作れるはずだ。

・・・彼女の、特典があれば。

「パスタ・マカロニを・・・マダム・・・に?」

宣言しながら、みかんが訝しげにアオイを見ていた。

葵がパスタを出そうとしていた手を止めたからだった。何故出せるのに出さなかったのか、不思議なのだろう。

葵は更に、その手を机の下に入れた。

「・・・!」

みかんが弾かれたようにレシピを見る。鶏を使った料理を探してくれているに違いない。

「トウモロコシを不審者に! 豚を不審者に!」

〈鶏+豚or牛+トウモロコシ+ソース=バーベキュー〉。

見つけてくれた。そして、伝わった。葵がみかんに3枚出す手助けをし、この状況を打破しようとしていることが。

みかんが目を皿のようにしてレシピを睨んでいる。この調子ならすぐにたどり着くだろう。

作りかけのミートローフに代わる、〈豚+パン+玉子=カツレツ〉あるいは〈パン+玉子+牛乳=パンプディング〉。それが今、自分にしか作れないことも。

みかんだって、出せるものなら教皇に5枚出したいはずだ。だがミートローフは作れないし、【置換】のルール上、オレンジの牛をカルボナーラの材料に置き換えることはできない。

ともかく、どっちかを作ってくれればそれで・・・。

(ああ、オレンジさんが上がるのを邪魔できた・・・良かった・・・)

後はみかんに任せて、葵はバーベキューのソースを復活させればいい。

・・・。

これが本心かって?

確かに上手く行ったが、こんなものはただの防戦。その場を凌いだにすぎない。葵は、2人に比べて得しないのだから。

(ホントは、このまま終わらせたくないよ・・・)

勝ちにつながるプレイがしたかった。納得なんてできない。

だから、いつまでも【復活】でソースを出せずにいる。

(他に、何かないの? もっと・・・)

「じゃ、この牛をパンに置き換えます!」

これで、教皇の皿には玉子とパンが並んだ。あとは豚か牛乳でどっちかが決まる・・・。

(ん?)

玉子、パン、牛乳・・・。

「豚を、」

「牛を教皇にっ!!」

今日一の大声に違いない。だけど許して。

「え、や、なんで牛を・・・」

置き直すかって? それはちょい待って。

「【復活】で・・・」

アオイを出し抜いたオニオングラタンスープを思い出す。みかんは確かあの時・・・。

「ブイヨンを復活!」

宣言し、使用済みカードからそれを抜き取る。

「・・・?!」

みかんも気づいたらしい。

〈牛+パン+玉子+牛乳+ブイヨン=コロッケ〉。

「助けてくれたと思ったら・・・」

「マジかよ、すご・・・」

「・・・お見事ね」

みかんは牛乳を教皇に、その下のソースを不審者に置いた。

教皇の特典は葵のもの。5ラウンドで葵は星8と一気にトップに立った。

「いや、悔し~俺ビリかよ!」

「まさかの同率1位。こんなことあるんだね」

あの後、みかんが食材を使い切ったのだ。葵はまだ結構あったが、注文運に恵まれ星10に達することができた。

・・・でも、使い切る方がカッコいいとは思う。

「もう一回~」

「そうね、ブルイちゃんも大丈夫?」

「はい。でもその後は・・・」

葵は少しもじもじしながら続けた。

「私が好きなゲーム、やってもいいですか?」

「勿論よ!」

「やろやろ! どんなやつ?」

「えっと、えっと」

即答を受け、葵はわさわさとお目当てのそれを棚から引っ張り出した。

今まで2人でしかやったことがなかったお気に入りのゲーム。

「これなんですけど、3人でやってみたくて」

「4人じゃダメかな、葵」

馴染みの声にギョッとして振り返る。

カウンターのヒロさんと、その横に父親が立っていた。葵に向けられた満面の笑み。

「1位おめでとう。あそこから、良く巻き返せたね」

「・・・ッ、うん!」

「・・・とっても良く頑張ったね、葵」

頬が熱くなるのを感じる。葵もきっと今、満面の笑みのはずだ。

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