おはなみびより

その他

春もたけなわの4月某日。町の運動公園では、数多ある桜の木が一斉に満開の時を迎えていた。枝を覆うようにして咲き盛る桜の花は、広い園内の隅々までを薄ピンクに色付けている。

雲一つない快晴の今日、運動公園は実に多くの人で賑わっていた。地べたにはレジャーシートがそこかしこに敷かれ、公園の入り口辺りにはタコ焼きやチョコバナナ、ベビーカステラなどの露店が立ち並ぶ。

重箱に箸を伸ばす家族連れ、香ばしい匂いにつられて露店に並ぶ学生達、三脚で桜の花を撮影する老人、花見を忘れて三色団子にかぶりつく子供。市民は皆、思い思いのひと時を過ごしていた。

そんな公園の片隅。小ぶりな桜の木の下で、小学生くらいの少年二人が走り回って遊んでいた。

木の根元に積もった花びらを、小さな両手で掬い上げて相手に突進していく。そして互いに、それを頭からかけたりかけられたり、を繰り返してはしゃいでいる。

すぐ傍では、母親と思しき女性がせっせと昼食の準備をしていた。折り畳み式のローテーブルを地面に立て、その周りに同じく折り畳み式の椅子を三つ置く。そして大きめのタッパーをいくつかと、紙皿と割り箸をテーブルの上に並べる。紙コップにもお茶を注ごうとしたところで手を止め、少年達に向かって声を掛けた。

「ほらほらおいで、お弁当を食べようね」

「はーい!」

「はーい!」

息子二人は遊びを中断し、髪やシャツに花びらをくっつけたまま母親の元へ戻ってきた。どすんと椅子に飛び乗った勢いのまま、テーブルに両手をついて空の紙皿を揺らす。

「お弁当、お弁当」

「何かな何かな」

「ほら、まずはおしぼりで手を拭いて」

「はあい」

「はあい」

母親がお茶を注ぐ横でタッパーの蓋を開けた彼らは、その中身にぱあっと目を輝かせた。

唐揚げ、玉子焼き、タコさんウインナー、スパゲッティ、といういつものご馳走に加え、今日はなんと海苔巻きもある。納豆、かっぱ、ツナサラダ、甘辛そぼろと、色とりどりでとても美味しそうだ。

「ママすごーい! いただきまーす!」

「手を合わせて、いただきまーす!」

唐揚げ、納豆巻きと、好物をそれぞれ頬張る息子達。

「おいひー!」

「おいひー!」

「良かったー。頑張って作った甲斐があるわ」

手作りのお弁当を食べる和やかな時間。冴えわたる青い空の下、緑の若葉の絨毯が母子三人を優しく受け止める。頭上で薄ピンク色に広がる桜は、時折風に誘われてその花びらを彼らの元へ舞い散らせていた。

「本当に、絶好のお花見日和ね」

「パパも来ればよかったのになー」

「パパ、お仕事忙しいから無理って言ってたじゃん」

「分かってるしー! 言ってみただけだしー!」

「残念よね。でもパパの職場にも桜の木があるから、きっとお花見できてるはずよ」

食べ盛りの子供達だ。沢山あったお弁当はあっという間になくなった。だがまだ、デザートにみたらし団子を買って食べなければならない。

母子三人のお花見の時間はまだまだ終わらない。

一方その頃。桜の木のある父親の職場では。

「くしゃんくしゃんくしゃん」

「おお、すごいくしゃみだ」

「4月に入ってから頻繁にこうなるんです・・・鼻水も相変わらずです」

父親は聞きながらペンを走らせる。さらに会話を重ねた後、彼は相手をじっと見て問いかけた。

「どうしますか? まだ薬で行きますか?」

「はい・・・そうします」

「分かりました。お大事に」

父親は自身の座る椅子をぐるんと回転させ、混雑する待合室に向かって呼びかけた。

「次の方、どうぞ」

「先生~鼻がかゆいんです~。鼻水も止まりません~」

「今の時期、花粉症になる方は多いですからねえ・・・。お鼻ですか? 診てみましょう・・・」

春もたけなわの4月、父親の耳鼻科は連日患者で大わらわ。

父親のおはなみは、まだまだ先が長そうだ。

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