2ラウンド目。お客は、赤髪の少年、アロハシャツを着たお婆さん、スキンヘッドのおじさん。
お婆さんの注文は『米を使った料理が食べたい』。皿の枠は3つ。
赤髪少年は『肉と野菜、どっちも使った料理が良い』。皿の枠は4つ。
おじさんの注文は『アメリカンな食べ物が良い』。皿の枠は5つ。
おじさんの注文カードを見た時、葵は思わずごくりと唾をのんだ。
「このおっさん、多分メジャーリーガーだよな。首太いし、体もゴツそうだよな。それから、えーっと・・・」
「はいはい、思いつかないなら無理に考えなくていいから。じゃあいい? ゲームスタート!」
「おじさんにレタス!」
寸後の葵の宣言に、二人の注目が集まるのを感じた。
アメリカンな食べ物をレシピ一覧で探す必要はない。さっき見たから。
〈牛+パン+トマト+レタス+ソース=ハンバーガー〉
まな板の一番上にあったのが、左から、豚、トウモロコシ、レタス、トマト、牛乳。今出したばかりのレタスの下にはパンがある。パンの下のカードを表向きにした。
(牛かソース来い! 牛かソース!)
残念、ニンニクだった。

「おじさんにパン!」
ニンニクの下のカードを表向きにすると。
(よし牛来た! んじゃ、まずはニンニクを使うレシピを探さないとね)
「おじさんに牛! その下のトマトもおじさんに!」
思考を遮るみかんの声。おじさんの皿は一気にハンバーガー完成間近となってしまった。
(あ、そっか! トマト置くの忘れてた!)
葵はまな板を見る。ソースは今、どこにも見当たらない。
(まあ2枚置けたし・・・でも、でも)
トマトのカードに親指をぐっと押し付けていることに気づいて手を離す。葵は口を引き結んでレシピに目を通し始めた。
(肉と野菜を使ったレシピ、それと米を使った料理・・・)
「お婆さんに香草・スパイス!」
「ばあちゃんに香草・スパイス!」
重なる宣言。顔を上げると、お婆さんの皿に2人が同時に香草・スパイスのカードを置いたところだった。だがよく見ると、オレンジのカードの方が枠の大半にしっかり被っている。
「俺よな、これ」
「いいでしょうっ」
少しすねたように、みかんは自分の香草・スパイスをまな板に戻す。
「じゃあ、お米をお婆さんに。それから「ソースをおじさんに!」」
また被ったようだ。葵はもう無視してレシピを漁ることに集中することにした。
「これも俺、でいいっすかね。みかんさーん?」
「はいはい、いいわよ。全く、どうしてこうも被るのかしら」
(仲が良いからでは?)
余計な思考に気をとられそうになって我に返る。
(いけないいけない、レシピレシピ・・・)
「じゃあ俺、もう1個のソースを少年に!」
(あそっか、ソースって2枚か)
全30枚の食材カードは基本的に1種1枚だが、今のソースのように2枚あるものもある。
「えーっと・・・あっ、これいけるな。魚介を婆さんに」
(っ、これか。〈魚介+米+香草・スパイス=エビピラフ〉)
葵の知らぬところで着々と料理が完成していっている。このままではまた出遅れる。
〈トウモロコシ+牛+トマト+タマネギ+ソース=トルティーヤ〉。カードを5枚使う。ダメ論外。
〈トマト+チーズ+香草・スパイス=カプレーゼ〉。肉が使われてない、ダメ。
〈チーズ+豚+ジャガイモ=ラクレット〉。これは野菜がない。
〈豚+タマネギ+ソース=ポークチョップ〉。
(私今、豚ある!)
「少年に、タマネギ!」
「同じく、この子に豚!」
オレンジに少し遅れてカードを出す形になった。
「よーしっ、今回もクリアだなっ!」
よって、評価フェイズに入る。

お婆さんのエビピラフから。
「米はみかん。魚介とソースは俺! よって俺が特典ゲットだな!」
赤髪少年のポークチョップ。
「ブルイちゃんが豚。タマネギとソースは俺だから、これも俺の!」
最後はおじさんのハンバーガーだが・・・。
「俺がソース。ブルイちゃんがパンとレタス。みかんが牛とトマト」
「私とブルイちゃんが2対2ね」
「なんだけど、この場合はみかんなんだよな」
『食材カード、もし置いた数が同数になったらメイン食材を置いた方が評価されるの』
『もし2対2で、どっちもメイン食材置いてなければ、誰も評価されないから気を付けてね』
メイン食材とは、レシピの式の一番左の食材のことだ。
〈牛+パン+トマト+レタス+ソース=ハンバーガー〉。
つまりハンバーガーなら、牛がメイン食材となる。だから牛を置いたみかんが客からの特典を得るということなのだ。
「じゃ俺、星1個進めるな」
「私も」
少年とおじさんの特典が、『星が1アップ』だったからだ。一方、お婆さんだけが違っていた。
吹き出しには『援助。次ラウンドのみ使用可能』としか書かれていない。そう言えば、1ラウンド目でみかんが老紳士から得た特典も『星が1アップ』と違って、そんな感じではなかったか。
(なんだっけ・・・)
みかんの傍のお客カードに目をやる。裏返っていて見えない。・・・思い出せない。カードが置けずがっかりするあまり、注意を払っていなかった。なんなら、今2ラウンドの最初も特典を確認せず、闇雲にカードを置きレシピを探していた。
(カードの特典を確かめて、優先順位つけてレシピを作るのもありだね・・・)
ボードゲームをやっていていつも思うのだが、反省点や次やることが分かってくると少し楽しい。
レシピ一覧も何度も見ているし、今のハンバーガーのようにレシピがパパっと出てくれば葵にもリードするチャンスはあるはずだ。
葵は、出せなかったトマトと牛のカードに強い眼差しを向けた。
(カード3枚しか減らせなかったけど、次は、次は絶対、カードいっぱい出して、特典もゲットしてやる!)
3ラウンド目。
お客は、ツインテールの美少女、頬っぺたに絆創膏を貼った青年、それと、髭もじゃの王冠を被った男性。
(パッケージにもいたっけ。やっぱり見た目通り、王様なのかなこの人? 太っ腹だし・・・)
そう、今回は一番最初に確認した特典。王様は『星が2アップ。もし本ラウンド開始時にプレイヤーが星1なら、星が3アップ』だった。
つまり、このラウンドで王様のカードをゲットできれば星駒が4のマスまで進む。星駒が3のマスにあるみかんとオレンジを一気に追い上げることになるのだ。
美少女と青年はどちらも『星が1アップ』だ。完全に王様の下位互換。
(よし、王様の料理を最優先に作ろう! さあ何かな、注文は?)
「注文カードめくっちゃうぜー」
美少女の注文は『トマトメインの料理が食べたい』。皿の枠は3つ。
青年の注文は『チーズを使った料理がいい』。皿の枠は4つ。
王様の注文は『トウモロコシを使った料理が食べたい』。皿の枠は5つ。
葵は口元が緩みそうになっているのに気づき、慌てて下を向いた。
(なんて、なんてついてるの私・・・!)

「じゃあスタート!」
「はい、俺、『援助』使います!」
葵の宣言より先に、オレンジがさっきゲットしたばかりのアロハシャツのお婆さんのカードを掲げた。いやな予感がしてトウモロコシを掴む手に力が入る。
「このラウンドでしか使えないからさっさとやっちゃうね? コレ、好きな食材カードの代わりになるから、チーズにしてバンソーコのお兄さんに」
「トウモロコシを王様に!」
良かった、と息をつく間もなく葵もカードを繰り出した。さっきのミスは繰り返さない。さっさと出してしまわねば。
「トマトも王様に!」
「んで、お兄さんにこのじゃ・・・」
じゃがいもを置こうとしていたオレンジの手が止まる。彼の視線がこちらに向けられていた。否、葵ではない。葵のまな板に。
オレンジは続けて自分のまな板を見、みかんのまな板を見た。
「えっと、このジャガイモはまだ宣言してないから置いてないってことでダイジョブ?」
「まあ、いいんじゃない・・・」
何やらぎこちなさそうな2人。葵はお構いなしに次のカードを手に取った。
「タマネギも王様に!」
2人は動かない。レシピを見て考え込んでいるようだ。
(もしや焦ってる? そりゃそうか! だって私、今王様の特典ゲット確定したもんね!)
2人の手が止まっているなら好都合。ニンニクの下の牛を王様に出すために、まずはニンニクを使うレシピを探さなくては。
(え、てか合ってるよね? あと牛とソースさえ置けばいいんだよね?)
〈トウモロコシ+牛+トマト+タマネギ+ソース=トルティーヤ〉。
2度見返した。合っている。葵は安心して、美少女と青年用のレシピを探しにかかった。
(美少女の方が探しやすそうだな。トマトメイン、トマトメインはっと・・・)
〈トマト+タマネギ+ニンジン+香草・スパイス=ミネストローネ〉。
〈トマト+野菜2種=サラダ〉。
〈トマト+チーズ+香草・スパイス=カプレーゼ〉。
トマトメインの料理はこの3つだった。
葵が今出せる食材は、左から米、玉子、ニンニク、鶏、牛乳。
ニンニクは野菜に分類されている。(食材や料理についての詳細はレシピ一覧の裏面に書いてある)つまり、現実ではあまり見たことがないがニンニクはサラダに使えるということだ。
「ソースを青年に」
黙っていたみかんの手が青年の皿に伸びる。
「香草・スパイスも青年に、その下のパンも青年に」
そこまで言うと、みかんはまな板のカードを表向きにし始めた。オレンジは何が気になるのか、微動だにせずそれを見守っている。
「ニンニクを美少女に!」
「パンの下の・・・」
牛の下は念願のソースだった。カードを掴む手が震えているのが分かる。
「牛を王様に、ソースも王様に!」
これにて、葵の、葵だけのトルティーヤがついに完成した。
(やたっ、完璧ッッ!)
「・・・アウトだあっ!」
「無念!」
ガタン、バンッと音が響いた。
オレンジは椅子の背もたれに身を投げ出し、みかんはテーブルの上に突っ伏している(ちゃんとまな板を避けて)。2人とも完全に脱力しているようだ。
「このラウンドはクリアならずか~」
「うーん、惜しいわね・・・」
「え」
葵は3枚の皿を見た。
トルティーヤで埋まった王様の皿と、4つの枠が全て埋まった青年の皿。
美少女の皿は、葵が置いたニンニクのみがポツンと乗っている。
「え、いや・・・まだラウンドは終わってないはずじゃ」
「サラダ、作れないのよお」
「ええ?!」
反射的に葵は席を立ち、身を乗り出していた。
3枚の皿の向こう側のみかんとオレンジへと。
葵が目を皿のようにしている間、みかんとオレンジは3人のお客で遊んでいた。
「パパ、助けてっ」
「その子は我が娘、この国の王女じゃ。離さんか悪党めっ」
「知らない髭もじゃ王冠おじさんが、私のこと娘呼ばわりしてくるの! そうかよしよし、パパがついてるからな」
「っ、そっち?! 何歳差なのよ、その親子」
やっと納得して席に着いた葵。確かにサラダは作れない。それに加え、2つのことに気づいてしまった。
その1。3ラウンド目は、自分が2人の足を引っ張っていた。


「王様のトルティーヤはブルイちゃん、お兄さんのマルゲリータピザはみかん、ってことで、まずは2人とも星駒動かして」
「おっけー・・・」
「・・・」
葵の星駒は一気に4まで進んだ。みかんと並んでトップだ。
「ブルイちゃん、このニンニクは元あった列に戻してね。それ最後の1枚だから、表向きで大丈夫だからね」
「はい・・・」
だが今から起こることを考えると、正直嬉しさより不安の方が勝ってしまっている。
「んで、今回クリアできなかった客がいるんで、このカードを引かなきゃいけないんだが・・・」
オレンジの視線の先には赤黄縞のカードの山札。
『これは、私たち全員へのペナルティーよ。クリアできなかったお客1人につき、1枚引かなきゃいけないの』
「あー・・・引くっきゃないかー」
「オレンジったら、あんなにワクワクしてたくせに」
「イヤそうだけど、今はヤバいだろ。もしあれが出たら・・・イヤ出るなこれ絶対」
「もう、私が引くわね」
「いやいや、俺行くよ」
ペナルティーにどんなものがあるかは事前に例を聞いていた。『使用した食材カードをランダムに1枚ずつ戻す』という軽度のものや、『全員の星を1ダウン』という露骨な評価下げをしてくるものもある。
はたまた『星を1ダウン、最も星が高いものは3ダウン』という、強きを挫き弱きを少し挫く系のカードもあるそうな。
(今挫かれたらどうしよ・・・一気に1に逆戻りじゃん)
「じゃじゃん! わっ」
『客のシェパードに、鶏小屋を襲われた! 次のラウンドのみ、鶏と玉子使用禁止!』
「あー出ちゃったわね」
「マジかよ今かよ。この子、カワイイ顔してえげつないことするなー」
「・・・」
葵は自分のまな板を見た。右から2列目の一番上が玉子で、4列目の一番上が玉子だ。これらが使えないということは、当然下の食材も使えないということだ。
ちら、と2人の方に目をやる。オレンジも、真ん中の列の一番上が玉子だ。みかんは、左から1列目と2列目の一番上が鶏と玉子。
使える食材が限られてしまったわけで、これではまたドツボにハマりかねない。
(あー・・・トルティーヤなんて作るんじゃなかったな)
3ラウンド目は、完全に葵の行動がドツボを招いたのだ。トウモロコシを使った料理なら、トルティーヤじゃなくてコーンポタージュでも良かったはずだ。美少女がトマトメインの食事を求めているのに、トマトを他の客に使うのは悪手だった。
(しかも、折角みかんさんがトマトを出せるとこまで行ったのにさ・・・)
青年に、香草・スパイス、パンを出したみかん。パンの下にはチーズ、その下にはトマトがあった。別の列の一番上には香草・スパイスが。
〈トマト+チーズ+香草・スパイス=カプレーゼ〉。
そう、トマトメインの料理が作れたのだ。
(オレンジさんもそのつもりだったよね・・・)
オレンジは最初、青年に〈チーズ+豚+ジャガイモ=ラクレット〉を提供しようとしていたんだろう。だけど取りやめた。というか、3ラウンド目は1枚も自分のまな板から食材を出していない。みかんが食材を出し続けてトマトが出てくることに賭けていたのかもしれない。
そこまでお膳立てされた全てを、葵のニンニクが台無しにしてしまった。
否、そもそも、自分以外誰もトマトを出せなかったということに気づくべきだった。
(私ずっと、自分の手札しか見てなかった・・・)
気づいたことその2。みかんとオレンジのまな板を見たのは、さっきが始めてだということ。
葵はずっと、自分がどの食材を出せるかしか考えていなかった。
(このゲーム、喋れないけどコミュニケーションが大事なんだ・・・)
ただの早出しでも暗記物でもない。他プレイヤーの手札に気を配り、全員の力を合わせてでも料理を全クリアすることを目指さなくてはならないのだ。
(次のラウンドは、2人の意図をきっちり組んで動かないと。もう使える食材が限られてるんだから)
葵の中で、このゲームは最早競争アクションものではなかった。コミュニケーションを要とする協力型ゲームだ。
(状況は厳しいけど、3人で力を合わせれば何とかなるはず!)
「はい、ここで私これ使います!」
不意にみかんが伏せていた客カードを取り上げた。見ると、1ラウンド目の老紳士だ。吹き出しには。
『任意のラウンド開始前に使用可能。自身のまな板の一番上の食材カード1枚を、任意のまな板の一番上に配置できる』
「というわけでブルイちゃん、プレゼント! お米の上に置かせてもらいます!」
「ファッ!!」
思わず変な声が出てしまった。
(え、3列・・・3列止め・・・)
「ブルイちゃん、そんな声出すんだな」
「びっくりしちゃったー?」
「いや、みかん流石にさ・・・やりすぎじゃ」

「なんて言うか、いやもう・・・」
何度かつばを飲み込み、気分を静めなければならなかった。
「み、みかんさんってこんなに容赦ない人なんですねっ・・・!」
じゃないと興奮のあまりちゃんと喋れなかっただろうから。

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