早朝。
郊外にぽつんと立つ一軒家に明かりが灯り、まずは一家の父親が車で出勤していった。
その少し後に、中学生の一人息子が玄関でスニーカーを履いていた。
「試合、頑張ってくるよ! よそのガッコーなんかに絶対負けないから!」
ユニフォームを着て、キャップを被り、テニスラケットを入れたバッグを背負って。母が作ってくれた弁当だけ忘れて、彼は元気よく家を飛び出していった。
食器洗いに洗濯干しに忙しくしていた母親が、テーブルの上に残された保冷バッグに気が付いたのはその30分も後のことだ。
「もう、うっかりさんなんだから!」
エプロン姿のまま、駅の方へ駆け出す母親。あんまり慌てていたので、玄関に鍵を掛けるのをすっかり忘れていた。
それを見てひそかにほくそ笑むものがいた。ここらを巡回してチャンスを窺っていた空き巣である。開けっ放しのドアから堂々と入った空き巣は、誰もいない家の中を物色し盗めるだけのものを盗んだ。そしてトラックに積んでいざ発進した・・・が。
「くそっ」
すぐにトラックが動かなくなってしまった。ガスリンの補充を忘れていたのである。やむなく貴重品だけ持って走って逃げようとしたその時。
「うちを荒らしたのはお前かっ」
出勤したはずの父親に見つかって取り押さえられ、あっさりと警察に引き渡された。
こうして、無事空き巣の被害を受けずに済んだ一家。父親は家族や友人から大いに称賛され、たびたびその活躍ぶりが話題に上がった。
「いやあ、あの朝はホントにどうかしてたなぁ。リストラされたの忘れて家を出るなんてさぁ・・・」
彼はその度に、こう前置きしてから己の武勇伝を語りだすのだった。

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