小さくて丸くてぶつぶつ穴が開いている。ビスケットは残り一枚。
姉妹は、一斉に皿に手を伸ばす。一瞬早くビスケットを掴んだのは姉の方だった。
「も~らい」
「ずーるーいー!」
「早い者勝ちだもんね~」
地団駄踏む妹の前で、姉はバリバリと音を立ててビスケットを食べた。
鮮やかな橙に粉砂糖をまぶしたような白い霜。冷凍みかんは最後の一個。
妹は左右を見た。誰もいない。そっと冷凍庫の中に手を突っ込む。
と、その時。
「デザートジャンケ~ン!」
大声に驚いて振り向くと、姉がこぶしを握り締めて頭の上でブンブン振っていた。
「冷凍みかんほしい子、よっといで~」
「えーやだ! みかんわたしの! はやいものがちだもん!」
「学校では、給食のデザート誰が食べるか、じゃんけんで決めるじゃん。ほら、出さんっと負っけよ~ジャンケンポン!」
とっさに出した手はグーのまま。姉の手はパーだった。
「はい勝ち~。冷凍みかんも~らい」
「ひどーい!」
「負けたからって文句言わないの~」
姉は妹の手から冷凍みかんを奪い、冷たそうに皮をむき始めた。
桜と抹茶が練り合わされ、甘くてほんのり苦い味。老舗屋のういろうは最後の一切れ。
「パパはもういいや」
「ママも。美味しかったわー」
「じゃあお姉ちゃんと私のどっちかだね。ジャンケンしよ!」
妹には、学校で友達から教わった必勝法があった。
「出さんと負っけよ、最初はパ・・・」
「ねえ、残りはお姉ちゃんにあげないか?」
妹はびっくりして父親を見た。
「なんでよ、ジャンケンで決めようよ」
「でもさっきお姉ちゃん、全部洗い物してくれたしさ」
「ママ、とっても助かったわ~」
「ぐぬぬ・・・」
してやったり、と笑う姉。
「いやあ、そういうつもりじゃなかったんだけどね。悪いね~」
姉はういろうをつまんで口に運び、一口一口味わうようにゆっくり食べた。
マンゴー、パイン、パッションフルーツ。南国フルーツジャムは、残りスプーンひとすくい。
たった今音を立てたトースターの中には、こんがり焼けた食パンが二枚。
「お姉ちゃん焼けたよ」
「あ~い」
妹はちょっぴりのジャムを見、恐る恐る姉を見た。
「お姉ちゃんの体重、心配だなー」
「え~なんで」
「だってお姉ちゃん、最近甘いの食べ過ぎてない? だからこのジャムもらってあげようか?」
「うん、もらっていいよ」
「えっ!」
妹は驚いて姉を見た。
「あんたにあげる。食べちゃってよ」
「え、いいのぉ?」
「うん」
戸惑いながらも、妹は大喜びでジャムを掬った。
ついに勝った。この最後のジャムは自分のものだ。
「あ、そうそう。今日ゴミの回収日だから」
「え?」
「食べたら捨ててきてねってママが。しっかり洗って、ラベルもちゃんと剝がすんだよ~」
片手でトーストをかじり、もう片方の手で洗い場のたわしを指さす姉。
ぜんっぜん剥がれないラベルをこそぎ落とす未来を想像しながら、妹は甘酸っぱいジャムパンを口に頬張ったのだった。


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