11月半ば。
X社。
平社員
「桐淵さん、今年でいなくなっちゃうんですね」
部長
「ああ。来月いっぱいで契約を終了するつもりだ。入ったばかりで申し訳ないが、もう決めたことだからな」
平社員
「明るくて話しやすい人だったのにざんねーん」
部長
「愛嬌があっても能力がな・・・というか、間違っても本人にばらすんじゃないぞ」
平社員
「へ? なんでですか?」
部長
「『あなたを切ります』なんて直接言えるか? 気まずいだろうが。後日、理由も含め派遣会社の方から伝えてもらうつもりだ」
平社員
「あーなるほど? その方がいいかもですね」
部長
「それよりお前、今年幹事だろ。忘年会の会場はもう押さえたのか?」
平社員
「あそうか、探さなくちゃ。じゃ!」
部長
「あ、おい、忘年会のこと桐淵さんには・・・ておい、あーあ行ったか」
桐淵
「聞こえたぞ、聞こえたぞ、忘年会って聞こえたぞ~」
部長
「あっ・・・桐淵さん。ど、どうしたのかな?」
桐淵
「いま、忘年会の話してませんでした~?」
部長
「・・・えっと、去年の忘年会の話だよ。タレたっぷりの焼き鳥が良かったな~って」
桐淵
「へ~いいなぁ。今年は? 今年は、どんなところ連れてってくれるんですかぁ?」
部長
(どこにも連れてってあげられないかな、ごめんな)
「ああ、うん・・・うーん、今年はやらないかもなぁ・・・」
桐淵
「えー、行きたーい、お酒飲みたーい」
部長
(ごめんな。派遣切りの人がいたら、忘年会の雰囲気暗くなるから・・・)
「ほらその、年末だから仕事忙しくてさ」
桐淵
「じゃあ新年会ですよ。年明けたら、新年会やればいいんですよぉ!」
部長
「え、ああ・・・そうだね。うん、まあ考えておこうか。まあ、いつになるかは分からないけど・・・」
桐淵
「やった、しんねんかーい! しんねんかーい!」
部長
(よし、なんとか誤魔化せたな・・・)
平社員
「え、新年会? 部長、忘年会じゃなくて新年会にするんですか?」
部長
「あ、ちょ」
平社員
「今、めっちゃいい店見つけたんですよ、ほら見てくださいこの忘年会コース!」
桐淵
「え、イタリアン風の天ぷらと刺身?! 美味しそう、絶対美味しい!」
平社員
「でしょでしょ、ここで忘年会しましょうよー」
部長
「あー・・・折角探してくれて悪いが、その・・・やっぱり忘年会は止めて新年会にしないか? ほら、年末忙しいし・・・」
桐淵
「イタリアンは捨てがたい、捨てがたいけど~。個人的には新年会でもぉ」
平社員
「えー、なんでですか」
部長
(お前もとりあえず納得しろ・・・)
桐淵
「だって折角のイタリアンを、疲れた体で食べるのも勿体ないし~」
平社員
「新年会とか言ってる方が勿体ないですよ! 忘年会なら、桐淵さんも参加できるのに!」
桐淵
「へ?」
部長
「おい・・・」
平社員
「? ・・・あ、すみませーん」
12月終盤。
結局、忘年会は開かれなかった。
平社員
「来年の桐淵さんのご活躍・・・先が見つかりますように! 乾杯!」
一同
「かんぱい・・・」
まるで通夜のようなお別れ会が、今年最後の、最大の思い出として皆の中に残ったことだけは明記しておく。


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