『4月1日
今日からカナちゃん、高校生♪ 皆とルンルン校門くぐったけど、クラス分けでガーン。カナちゃんだけ、ミホちゃんたちと違うクラスなんだもん。カナちゃん、教室でポツン。これ、間違いなくぼっちになるやつだよね。
でもね、でもね、カナちゃんぼっちにならなかったの。サキちゃんって子が声掛けてくれたから。明るくて優しくて、とってもかわいい子! そのサキちゃんに誘われてね、学校終わった後ゲーセンに行ったんだよ。初ゲーセン、めっちゃ楽しかったー!
それでそれで、帰り道サキちゃんにね、 “私達友達だよね?” って聞いたら “勿論!” って言ってくれたの。やった、友達出来た! これからの三年間が楽しみ!
バラ色の高校生活が君を待っている、なんつって♡』
『5月9日
サキちゃんってホントすごい♪ だってよそのクラスにすいすい入っていくんだもん。
今日なんかね、部活の用事で二年生の教室行くことになったんだけどさ、サキちゃん全然へっちゃらなの。でしかも、 “ねえあの人カッコ良くない?” とか言って、ぐいぐい近寄っていくの。
教室のドアに寄りかかっている男の先輩でー。俯いてたから顔は分かんなかったんだけど、すごく背が高くてスタイルがいいの。サキちゃんが “こんにちは” って挨拶したら、顔を上げて “こんにちは” って返してくれて。カナちゃん、思わず顔が真っ赤になっちゃった。だってだって、声も顔もすごく爽やかでカッコよくて~。
教室に戻ってもあの声と顔が頭から離れなかった。しばらく心臓がバクバクしてた。
もしかして・・・運命を感じちゃったかな♡』
『6月10日
今日は体育祭♪ やっぱり高校は規模が違いすぎ!
カナちゃん、騎馬戦で落ちちゃったけどでも玉入れも応援ダンスもがんばったよ! サキちゃんともいっぱい写真撮った! 楽しかった!
しかもしかも、忘れられない思い出ができたの。玉入れの前に、カナちゃんハチマキなくしちゃって。座席の近くにないし、もう整列しに行かないといけないし。サキちゃんもいなかったからもう、一人で大パニック。
そこに、通りすがりの人が “どうしたの?” って声を掛けてくれたの。なんと、この前のカッコいい先輩! ハチマキがないって言ったら、 “今日どこ行ったか思い出せる? 俺見てくるから”って優しく言ってくれて。
でね、でね、いよいよ入場するって時に、ハチマキをもって駆けつけてくれたの。 “水飲み場の横に落ちてたよ” って、それだけ言って走って行っちゃった。
そういえば、ハチマキを外して水を飲んだっけ。もう、カナちゃんのバカバカ。お礼もちゃんと言えてないし!
あの後、探したけど結局先輩には会えなかったな。残念。でも名前だけは分かったの。ゼッケンに雨宮って書いてあった。雨宮先輩。もっと一緒にいたかったなぁ。
少ししか喋れなくて本当に残念♡』
『7月6日
カナちゃん、今日も課題運びのお手伝い♪ 現代文の先生は二年の担任だから、そこまで係の人と一緒に課題を持って行ってあげるの。通りすがりに、雨宮先輩の顔が見えるだけですっごく心がポカポカするの。
先輩はいっつも、男友達と喋ったり宿題したりしてる。でも今日は、女の先輩達に囲まれてた。先輩、人気者なんだね・・・。
そういえば、先輩って好きな人とかいるのかな。ううん、そんなことカナちゃん、知らない知らない。
そんなくだらないこと考えてないで、期末テストに向けて勉強しなくちゃ♡』
『8月16日
カナちゃん、今日も図書室に通うよ♪ 毎日偉いねって先生に言われたけど、別に読んでないよー。図書室から出て校門の傍で本を立ち読みポーズ。
この時間になると、サッカー部員が外周から戻ってくる。雨宮先輩、いつもみたいに挨拶してくれるかな。そろそろ、 “毎日偉いね” って言ってくれたりしないかな。・・・って思ってたのに、いつまで待っても先輩は戻ってこなかった。
おかしいなと思ってグラウンドの方に行ったら、なんと先輩がそこで女の子と喋ってたの。二人きりで。すっごい楽しそうに。
え、マネージャだよね? それだけだよね。彼女なんかじゃないよね。
うん、そんなわけないない♡』
『9月22日
サキちゃんに誘われて、文化祭当日のボランティアに応募♪ そしたらなんとなんとー、先輩もいたの! 嬉しいな。
何の係やるか決める時、カナちゃんはもちろん先輩と一緒のにしたよ。でもサキちゃんもくっついて来たの。 “カナちゃんと一緒がいい” って言ってたけど、困るなあ。まさか、雨宮先輩を狙ってるとか? あーあ残念、文化祭つまんなくなりそう。
二人きりの方が絶対いいよね♡』
『10月16日
文化祭当日♪ ボランティア、すっごく楽しかった。先輩といっぱいお喋りできた。先輩はずっと優しくて頼もしくて。力仕事を引き受けてくれたり分かんないことを教えてくれたり! 空き時間も一緒に焼き鳥食べたんだよ。二人きりだから、ずっとデートしてるみたいだった。
サキちゃんが実行委員から預かった、倉庫の鍵を隠したのが大正解だった。サキちゃんは鍵探しでボランティアどころじゃなかった。見つかった後も、実行委員に怒られてて先輩に近寄れなかった。良かった。
でも、ちょっと嫌なことがあったの。文化祭が終わった後、実行委員がサキちゃんを怒鳴ってたら雨宮先輩が庇ったの。 ”一方的に鍵を押し付けたんじゃないの” とか ”そんな大事なものを一年に渡しちゃダメでしょ” とか。先輩、サキちゃんのためにあんな風に・・・。
でも、でも、先輩は誰にでも優しいんだもんね。それに、サキちゃんは絶対、雨宮先輩のこと好きにならないよね。他の先輩にも慰めてもらってたもんね。そんなことよりカナちゃんと雨宮先輩のことを書かなくちゃ!
ボランティア中、カナちゃん階段でつまずいて落ちそうになっちゃったの。そしたら先輩がサッとお腹に腕を回して支えてくれたの。もう一方の手はカナちゃんの二の腕をがしっと掴んでくれたの。だから、すごく密着してた。
“大丈夫?” って聞く先輩の顔が近くにあって。カナちゃん、思わずぼうっとなっちゃった。
まるで、お姫様を助ける王子様みたいだよね。ああ、本当に夢みたい。
あの時の感触が、今も忘れられないよ♡』
『11月17日
今日、もうちょっとで人に見つかるところだった♪ とっさに靴箱の陰に隠れたからセーフだったけど。
先輩、靴までいい匂いなんだね。ホントにかっこよすぎ!
カナちゃん、もっと先輩と仲良くなりたいなあ。そのためには先輩のこと、もっとよく知らないとだね。サキちゃんも最近彼氏ができて忙しいし、今のカナちゃんは自由の身。家にばっかりいないで早速出かけなきゃ!
寒くなる季節だから、温かくしないとね♡』
『12月24日
やっぱりね♪ 雨宮先輩、彼女いないんだ。だって、クリスマスイブに家族と出かけてるんだもん。クリスマスマーケットで600円のサンタの人形買って、おしゃれなフレンチでクリスマス・コース食べてた。ツリーの形のケーキ、いいなあ。
カナちゃんなんてコンビニのケーキとチキンだよ。だけど、先輩の横顔を見ながらだとすっごくおいしかった。
一緒にクリスマスを祝えて良かった♡』
『1月2日
今日、雨宮先輩と一緒に初詣に行ったよ♪ 鳥居の前で勇気を出して声を掛けたの。先輩、カナちゃんのことちゃんと覚えてた!
昨日、なんでずっと家にいたのか気になってたんだけど、その謎も解けたよ! 遠い親戚の人とオンラインゲームしてたみたい。先輩、ゲーム好きなんだぁ。絶対忘れない。
今年も、先輩のこといっぱい知れますように! 仲良くなれますように!
今年も頑張れ頑張れ、カナちゃん♡』
『2月14日
今日は待ちに待ったバレンタインデー♪ 雨宮先輩に昨日作ったチョコ渡せたよ! 喜んでくれてた。カナちゃん嬉しい!
でもやっぱり、髪の毛だけじゃ定番すぎ? けど血まで入れたらおいしくないよね、そこはガマンガマン。
あ、勿論メッセージカードも書いたよ! 一番大事な言葉はまだ取っておきたいから、
“先輩、ス・テ・キ”って。
ちょっとノリが古臭いかな♡』
『3月13日
今日は、珍しく学校で日記を書いてます。ついに明日だね、特別な日。カナちゃんの誕生日であり、人生一の記念日になる日。
明日、チョコのお返しの時に伝えるつもり。雨宮先輩に、カナちゃんの思いを。
大丈夫かな、大丈夫だよね、きっと上手く行くはず。
緊張はするけど、先輩との思い出がいっぱい詰まった日記がカナちゃんの心を励ましてくれる。
だから、頑張って伝えなきゃ。どんな言葉が良いかな。悩ましいけど、これよりいい言葉が見つからない。
好きです、先輩』
「俺も好きだよ、カナちゃん。ハートっと」
そう書き込むと、俺は彼女の日記からペンを離した。
「カナちゃんも、初対面の時から俺が気になってたとはね。にしてもこれを忘れて帰宅するなんて、ドジなところは相変わらずだな」
だがそれが行動力とのいい塩梅だとも思う。
最後にページをめくり、全ての♡マークが滲んでいないか確かめて俺は日記を閉じたのだった。

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