鈴木君vs目玉焼き

鈴木君は腹ペコでした。そこで目玉焼きを作って食べようと思いました。

鈴木君は冷蔵庫から玉子を一つ取り、シンクの角で割りました。

「痛い!」

突然小さな叫び声が聞こえました。鈴木君はびっくりして周りを見ました。誰もいません。きっと空耳でしょう。

鈴木君は割った玉子をアツアツのフライパンの上に落としました。

玉子がジュワジュワと焼ける音を聞きながら、鈴木君は氷の入った水をゴクゴク飲みました。二杯も飲みました。エアコンも付いています。今日はとても暑いのです。

裏面をしっかり焼いた後、弱火で三分蒸し焼きにして鈴木君は火を止めました。鈴木君の大好きな、半熟の目玉焼きの出来上がりです。

鈴木君は早速、目玉焼きをお皿に盛りました。それから白ご飯をお茶碗によそい、小鉢にきゅうりの漬物を入れました。納豆も欲しかったのですが、冷蔵庫を探してもないので諦めました。ともあれ、待ちに待ったご飯の完成です。

「いただきます」

「やめてください」

またもや小さい声が聞こえました。どうせ空耳です。鈴木君は目玉焼きにソースを垂らしました。

すると、お皿の上の目玉焼きがすすすとソースを避けたではありませんか。

「やめてって言ってるでしょ!」

なんと、喋っているのは皿に乗った目玉焼きでした。

「僕を食べるのはやめてください!」

「なんでそんなこと言うんですか」

白い白身に囲まれた黄色いまんまるの黄身。見た目はただの目玉焼きです。そして鈴木君は腹ペコです。

「僕、お兄さんに会いに行きたいんです」

「お兄さん? 他の玉子のことですか? ならもう冷蔵庫で会っているはずですよ」

鈴木君が目玉焼きをつまもうとすると、白身がぴんとお箸を弾きました。

「そんなんじゃありません。あいつら、僕と同じ大きさなんだもん」

「じゃあお兄さんってどこの誰なんです」

「知りません」

「どういうことですか」

「僕にそっくりで、僕よりずっと大きいお兄さんがきっとどこかにいるはずなんです。心当たりはありませんか?」

鈴木君はもう一度ソースの瓶を手に取りました。

「多分、僕のお腹の中にいます。連れて行ってあげますよ」

「嘘だっ」

目玉焼きは大声で怒鳴りました。

「僕を騙そうったってそうはいかないぞ。僕のお兄さんがそんな小さいわけない。お兄さんに会わせてくれなきゃキャーキャー叫んでやるからな!」

さあ、困ったことになりました。何とか静かになってもらわないと、うるさくてたまりません。

鈴木君は「お兄さんなんていない」と説き伏せようとしました。目玉焼きは知らんぷりしてギャーギャー喚き続けました。鈴木君は紙に大きい目玉焼きを描きました。ですが「小さい」と目玉焼きは言いました。これも駄目でした。

「いい加減、疲れて眠くなるんじゃないんですか?」

もう、鈴木君は腹ペコでたまりませんでした。

「眠くなりません。あなたとは違いますから」

目玉焼きはふふんと得意げに笑い、付け加えました。

「まあ、熱くなると寝ちゃうんですけどね。さっきもフライパンの上では眠ってましたよ」

これはいいことを聞きました。もう一度フライパンで焼けば静かになり起きてこないでしょう。

しかし、鈴木君は嫌でした。目玉焼きの黄身が固くなってしまうからです。

「そんなことより早くお兄さんを探してください。ねーったら!」

困った鈴木君がふと窓の外を見た時でした。鈴木君の頭に名案が閃きました。

「見つけましたよお兄さん」

「えっホント?」

鈴木君は目玉焼きの乗った皿を窓辺に近づけました。今日は晴れの日で、太陽がさんさんと照っています。そして今ちょうど、太陽の周りに白い雲が集まっています。

それはまるで、ふわふわの白身と光り輝く黄身をもつ大きな目玉焼きのようでした。

「あれが僕のお兄さんに違いない!」

目玉焼きは大喜びでした。

「お兄さんに会いに行きたい!」

「行きましょう!」

鈴木君は目玉焼きと一緒にベランダに出ました。そして、目玉焼きの皿を頭の上に持ち上げて太陽に近づけました。

雲はもう、太陽の傍から離れていました。目玉焼きはカンカンに怒りました。

「あれは僕のお兄さんなんかじゃない!」

ですがもう、目玉焼きは熱くなっていました。

「よくも、騙した、な・・・ひ・・・ど・・・い・・・」

目玉焼きは眠ってしまいました。今度は鈴木君が大喜びです。

「やった! これでご飯が食べられる!」

ですがその喜びもつかの間。頭の上で何かがぶつかり、鈴木君は思わずお皿を落としてしまいました。幸いお皿は割れませんでしたが目玉焼きがどこにもありません。

「あっ!」

真っ黒なカラスが、ベランダからどこかに飛んで行きます。その爪には目玉焼きがしっかりと握りしめられているではありませんか。

「よくも取ったな! ひどい!」

鈴木君はカンカンに怒りましたがどうにもなりません。自分を待つ白ご飯ときゅうりだけのテーブルに、泣く泣く帰っていくのでした。

ーー

後日、あるカラスの巣で何羽もヒナがかえりました。

「ねえ、僕本当のお兄ちゃんに会いたいよ」

末っ子ヒナに、お母さんカラスが一生悩まされることになるのはまた別のお話。

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