一つのお布団の中で、お兄ちゃんと弟がひそひそ声でお喋りをしていました。
「兄ちゃん、もうすぐ母の日だね」
「そうだな。お母さんのために、最高の日にしなきゃな」
年に一度の特別な「母の日」。兄弟は、その日の夜にパーティーを開こうと決めました。
「二人でご馳走を作ろうよ」
「そうだな、プレゼントも渡したいな」
次の日から、兄弟は二人でご馳走のメニューやプレゼントの候補を考え始めました。
「頑張ろうね!」
「お母さんの笑顔が楽しみだな」
ですが「母の日」の前日、兄弟は喧嘩をしてしまいました。理由はちょっとしたことで、一つしかないゲーム機の取り合いでした。
お母さんが心配するほどの大喧嘩の末、兄弟は完全に仲違いしてしまいました。いつもは隣同士のご飯も端と端とでそっぽを向いて食べ、いつものテレビも一緒に見ませんでした。寝る時のお布団も別々でした。
次の日、待ちに待った「母の日」になっても二人は仲直りしようとしませんでした。お父さんがヒヤヒヤしながら見守る中、台所に降りて来たのは弟一人だけでした。この日、いつも一緒の二人はずっと別々で、口をきこうともしませんでした。
弟は一人で料理と居間の飾りつけをしました。
冷蔵庫の中の牛肉と人参、じゃがいも、玉葱を煮込んでカレーを作りました。
クラッカーに、生ハム、トマト、チーズをのせてオードブルを作りました。
注文したチキンをオーブンで温めました。
ケーキを一つずつお皿に乗せました。
プレゼントを居間の目立たないところに置いて、ナプキンを並べテーブルクロスを敷けばいよいよ準備完了です。弟はお母さんとお父さんを居間に呼びました。
一方、この日のお兄ちゃんはほとんど一人で外にいました。
朝、スーパーでお肉と野菜、ルーを買いました。
家にクラッカーがないのを思い出し、もう一度スーパーに行きました。
昼に、自転車を漕いでチキンを受け取りに行きました。
帰り道に近所のケーキ屋に寄りました。
夕方、デパートでプレゼントを買いました。それは、弟と二人で「これにしよう」と決めていたものでした。家に帰り、お兄ちゃんは一人で台所に立ちました。
洗い物待ちのお兄ちゃんを、お母さんは居間に呼んでテーブルに着かせました。勿論弟の隣です。
もじもじする二人に、お母さんは言いました。
「二人とも、ありがとう。こんな素敵なパーティーを開いてくれて」
テーブルの上には美味しそうな御馳走が並び、ソファーの陰からはプレゼントの袋が見え隠れしています。お母さんはにっこり笑って言いました。
「これも、二人が一緒に頑張ってくれたおかげね」
兄弟は顔を見合わせました。別に、一緒に頑張ったわけじゃありません。でも・・・お母さんの言う通りでした。
お父さんがパン、と手を叩きました。
「さあ、乾杯しようじゃないか」
「そうね、ご馳走が冷めちゃうわ」
そこで二人ははっと我に返りました。ジュースで乾杯し、パーティーが始まりました。
「まあ、美味しいわ」
「カレー作るの、大変だったんだよね」
「チキンもケーキも持って帰るの結構重かったな」
「ありがとうね本当に」
楽しくご馳走を食べ、お母さんがプレゼントを開けてパーティーは終わりました。お兄ちゃんが食器を片付けていると、弟が声を掛けました。
「僕もいっしょにやる」
「いいよ」
二人で並んで洗い物をした後、一緒にテレビを見ました。二人はもう、別々になったりしませんでした。
「次は父の日だね」
「また、パーティーしような」
「うん。次は一緒にご馳走作ろう」
「買い物も一緒に行こうな」
その晩、一枚の布団が二人分盛り上がっているのを、お母さんは優しい目で見つめていたのでした。
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